聴神経鞘腫は全脳腫瘍のうち約9%を占めるといわれ、女性に多く30-60歳の間に多い腫瘍です。音を伝える過牛神経と平衡感覚をつかさどる前庭神経からなる第8脳神経(聴神経)に発生する腫瘍で、初発症状は一側の難聴が70-85%と最も多く、電話が聞き取りにくくなるなどの症状で発症することが多い様です。耳鳴りは単独で起こることもありますが、聴力障害に伴うのが普通です。腫瘍がさらに大きくなると、顔面のしびれや平衡感覚障害を来たし、そのまま放置すると水頭症などを併発し命に関わる場合もあります。
聴神経鞘腫はゆっくりと大きくなる良性腫瘍であるため、脳ドックなどで偶然に見つかった場合などに一刻を争って治療しなければならないと言うわけではありません.しかし、徐々にではあっても腫瘍は確実に大きくなる事が多く、しかも腫瘍が大きくなればなるほど手術は難しくなるので、特に若い患者さんでは手術により早期に腫瘍を摘出するのが最も根本的な治療法ではないかと思われます。
聴神経鞘腫は良性腫瘍ですので完全摘出すれば病気も完治したということになります。しかしながら、腫瘍が大きな場合、周囲の重要な血管や神経(聴神経の他に顔面神経や舌咽神経など)に強く癒着していることも多いので、これら血管や神経の損傷を避けるため、あえて腫瘍の部分摘出に終わらざるを得ない場合もあります。また、腫瘍を全摘出し、肉眼的にこれら重要な神経を温存できても、腫瘍により長期間圧迫されていた神経は非常に傷つきやすくなっているため、術後に顔面神経麻痺や嚥下障害をきたすことなどが手術の問題として挙げられるでしょう。
神経鞘腫のその他の治療としては、ガンマナイフが挙げられるでしょう。通常この方法は、腫瘍の大きさがが3cm以下の場合に適応があります。開頭術では、聴力を温存するのが難しくしばしば顔面神経麻痺をきたすことがあるのに対して、ガンマナイフではこうした合併症をきたすことは殆どなく、しかも頭蓋骨を開けることなく、2-3日の入院で治療可能な点がこの方法の利点でしょう。特に、開頭術により術後顔面神経麻痺を来たし顔が歪んでしまう精神的苦痛を考えると、ガンマナイフを手術に代わる選択肢として選ぶのも無理からぬことです。ただし、ガンマナイフにより腫瘍が消失することは殆どなく、むしろ腫瘍の増大を抑えるための治療と理解する必要はあります。聴神経鞘腫が良性腫瘍であり全適すれば治る腫瘍であることを考慮すると、若い患者さんでは手術を第一選択にした方がよいのではと思います。まず、ガンマナイフ治療を行った後にもし腫瘍が大きくなるようであれば手術を考えるという選択肢もありますが、ガンマナイフを行うと腫瘍と周囲組織の癒着が起こりやすく手術が難しくなるという問題点があります。
最後に、聴神経鞘腫は発見すればすべて手術やガンマナイフなどの治療を行わなければならないというわけではなく、特に高齢な患者さんで無症状の場合には、治療による合併症の危険も考慮して経過を見るだけのことも多いことは知っておいて下さい。