顔面けいれんの手術


顔面けいれんとは、顔面の筋肉がピクピクと発作的、不随意的にけいれんをおこす病気です。中年の女性に多く、初期には目の周りの筋肉がピクピクすることが多く、症状が進行すると頬や口の周りの筋肉さらには首の筋肉にまでけいれんが及ぶようになります。顔面神経麻痺の治癒後の後遺症としておこることもありますが、最も原因として多いのは、顔面神経(顔面の筋肉の動きをコントロールする神経)の根元の部分に動脈硬化で屈曲した脳深部の動脈や静脈が当たり、顔面神経が刺激を受けることであることがわかっています。

幸いにしてこの病気によって命を取られることはありませんが、人前で顔面がピクピクする精神的苦痛は軽視できるものではなく、しばしば社会生活に支障をきたす場合もあります。また経過とともに症状が悪化し、重症になると顔面神経に麻痺が生ることもあります。このことから,なんらかの治療が求められることになります。

既に述べた様に、顔面けいれんの殆どは脳血管が顔面神経の根元の部分を圧迫することであることから、脳外科手術によって、この血管の圧迫を取り除く治療が広く行われるようになりその有効性が証明されています。この方法は微小血管減圧術とよばれ、その有効率は90%以上といわれています。手術は全身麻酔下に行い、まず耳の後ろの皮膚に約7-8センチの皮膚切開を行います。次いで、直下の頭蓋骨に直径約4センチ程度の骨窓を開け、この部より顕微鏡下に脳の深部に至り、原因となっている圧迫血管を探索し、原因血管が見つかったら慎重にその血管を顔面神経からはずし、神経と血管の間にテフロン繊維などでできたクッションを挿入して二度と神経に圧迫が加わらないようにするのです。まれに、手術により難聴や顔面神経麻痺を来たすことがありますが、熟練した術者により手術が行われば安全な手術と言えるでしょう。病気の根本原因を治療するという意味で極めて合理的な治療といえましょう。

顔面けいれんのその他の治療法用法としては、まず薬物療法が挙げられます。一般に精神安定剤や筋弛緩剤(筋肉の緊張をほぐす薬)が使用されることが多いようです。これは顔面けいれんが人前に出たり、精神的に緊張したりすると増悪する傾向があるためですが、残念ながら、効果は殆ど期待できません。最近、神経毒の一種であるボツリヌストキシンの皮下注射(筋肉がピクピクする部位に注射する)により、顔面神経の過剰な興奮を部分的に遮断する方法が行われる様になりました。手技が簡単で効果も明らかですが、その持続期間は3-4ヶ月であることから反復治療が必要で、しばしば顔面神経麻痺を起すことが問題点でしょう。微小血管減圧術が安全に行われる様になったとは言え、ごく稀に重篤な合併症が起こる場合があり、顔面けいれんの治療の選択肢の一つとして注目されています。