脳動脈瘤とは、脳血管の分岐部の血管壁が風船のように膨れてできる血管の瘤で、これが破裂すると脳表に一気に出血(くも膜下出血)し、突然の激しい頭痛を引き起こします。出血量が非常に多ければ、重度の意識障害や麻痺などの神経症状をきたすことにもなり、約1/3
の例で発症時に命をとられると言われる非常に怖い病気です。たとえ初回破裂時に死を免れても、治療を行わない限り動脈瘤が再破裂する可能性は高く、通常緊急手術の対象になります。
現在、破裂脳動脈瘤に対して最も一般的に行われている治療は開頭クリッピング術と呼ばれる手術です。動脈瘤の根元の部分を金属製のクリップで挟んで、動脈瘤への血流の入り口を遮断することにより出血を予防するものです。全身麻酔で行うため術中の痛みはありません。皮膚を切開をする場所は動脈瘤の部位によって異なりますが、最も多いのは前頭部から側頭部にかけての毛髪の生え際に沿った部で、普通弧状の皮膚切開を行います。次いで、皮膚切開した部の直下の頭蓋骨をドリルで切断し蓋のように外すと、脳表を覆っている硬膜が現れます。これを切開するといよいよ脳が現れます。くも膜下出血の場合、出血のため脳表は普通暗赤色となっており、脳も腫れています。
ここから先は、手術用顕微鏡を用いて高倍率下の視野で手術を進めていきます。動脈瘤は比較的脳の浅い部分にあることもありますが、通常は脳の深部にあり、少しづつ脳,脳神経,脳動脈,脳静脈を剥離しつつ目的の部位に近づいていきます。動脈瘤を見つけたら、動脈瘤の頚部(根元の部分)を剥離した後に金属のクリップで慎重に頚部を挟み動脈瘤が出血しないようにして手術が完了します。現在のところ、再破裂の予防方法ではクリッピング術が最良の方法と考えており、患者さんが非常に高齢である場合やクリッピング術の危険度が非常に高い場合を除いて破裂脳動脈瘤の治療のファーストチョイスとなっています。また、手術により出血の危険性がなくなれば、くも膜下出血の合併症の一つである脳血管攣縮を防ぐ為の治療がしやすくなります。
クリッピング術の歴史は古く既に脳外科手術の中ではスタンダードとして確立されたものです。しかし、どの様な手術でもそうですが、絶対に安全ということはありえず、この手術も少なからず危険を伴います。一番の危険はクリップがかかるまでの間に再破裂することです。最悪の場合には術中死亡もあり得ます。また、動脈瘤を処理するためにやむを得ず、他の血管を犠牲にしなければならないこともあり、これが原因で脳が腫れたり脳内出血を起すこともあります。そうした場合、障害を受けた脳の症状が出ることがあります。
しかしながら、破裂脳動脈瘤は放置すれば半年以内に約60%が再破裂すると言われ、再出血予防のための手術は避けて通ることはできません。脳外科医は既に述べたような合併症を極力起さないように常に努力する必要があると思われます。