慢性硬膜下血腫の手術(穿頭洗浄術について)

脳の表面と頭蓋骨の間には硬膜と呼ばれる硬い膜があり、この硬膜と脳表の隙間は硬膜下腔と呼ばれています。慢性硬膜下血腫は、頭の打撲後およそ1−2カ月経過して、この硬膜下腔に血液が徐々に貯留し脳を圧迫する病気で、高齢な男性に多くみられます。

貯留した血液(血腫)量が少なく脳に対する圧迫が軽度であれば症状は来たしませんが、血腫が増え脳を強く圧迫するようになると半身麻痺や言語障害などの神経症状を呈し、高齢者ではしばしばボケ症状の原因にもなります。一旦神経症状が出現すると、そのまま放置すればやがて意識障害を来たし、最終的には命を取られる場合もあります。

幸いこの慢性硬膜下血腫は、穿頭洗浄術と呼ばれる簡単な手術により溜まった血腫を抜けば治る脳外科の手術の中でも極めて予後のよい病気です。手術は、通常清潔を期するために毛髪を小範囲剃って局所麻酔で行います。頭皮を3cm程切り、頭蓋骨に直径1.5cm程の穴を開け、その下にある硬膜を切開すると溜まっている血液が噴出してきます。残った血腫を吸い出した後に、血が溜まっていた空洞(血腫腔)の中をきれいに洗います。最後に、頭蓋骨に開けた穴から細いチューブを血腫腔に挿入した後、皮膚を縫合して手術は終わりです(患者さんの年齢や術前の状態によっては、硬膜切開後直ちにチューブを挿入し、ゆっくりと血腫を排出させる場合もあります)。手術は通常30分程で、順調に経過すれば手術翌日には頭のチューブが抜け、手術後56日で抜糸が終わります。症状も、殆どの場合手術の翌日から消失し、術前に歩くことができなかった患者さんもスタスタと歩ける様になります。その後必要に応じて頭部CT検査等行い、異常なければ入院後約2週間で退院となるわけです。

穿頭洗浄術は、脳外科の手術の中では危険性が低い手術といわれています。問題点としては、術後稀ながら血腫除去に伴う脳の構造変化や洗浄時の操作により脳内出血を起すことがあるということと、時に術後血腫が再貯留して再手術を要する場合があるということでしょう。