定位的脳内血腫除去術


脳内出血とは、呼んで字のごとく脳の内に出血を来たした病態を言い、原因を大きく分けると脳卒中によるものと頭部の外傷によるものとがあります.脳卒中の場合、高血圧が原因で起こる高血圧性脳内出血が多く、これは長期に渡る高血圧により脳の細動脈が動脈硬化を起こして脆くなり、血圧に耐え切れなくなって破綻するために起こります。高血圧性脳内出血には好発部位(被殻・視床・小脳・脳幹部など)があり、症状は出血の起こる場所により異なりますが意識障害、片麻痺、知覚障害、失語症、運動失調などが代表的なものです。

 さて、脳内出血の治療についてですが、単純に脳の中に出血を起したからといってすべてが手術(つまり外科的に脳内の血の塊を取り除く)の対象になるわけではありません。一般に、手術を行うか否かは、患者さんの症状および出血量や出血部位によって決まります。通常出血量が少なく脳損傷の度合いが軽度で、患者さんの症状が軽ければ薬物療法で治療することが多いと思います。しかし出血量が多く、血の塊(血腫)が周囲の脳を強く圧迫し、薬物治療だけでは症状の改善を図るのが難しいと判断される場合には、手術が考慮されます。

 さて、手術により脳内の血腫を取り除こうとする場合、その方法は大きく分けて
2つあります。その一つが、皮膚を大きく切開し、直下の頭蓋骨を広範囲に除去した後に、脳の中の血腫を顕微鏡下に取り除く開頭血腫除去術と呼ばれる方法です。この手術は血腫が非常に大きく患者さんの意識状態や呼吸状態がかなり悪化している場合に選択されることが多く、治療の第1の目的は救命ということになります。

 もう一つの方法が、定位的脳内血腫除去術と呼ばれているものです。これは皮膚を3cm程度切開し、頭蓋骨に直径1.5センチ程度の穴を開け、この穴を通して細い管を血が溜まっている部位に挿入し、この管から血液を吸いだそうとするものです。正確に管を血腫の中心に挿入するため、CTスキャンを使ってその部位を計算し、特別な金属のフレームを頭部に装着して手術を行います。開頭血腫除去術が大きな血腫に対して救命目的で行われるのに行わるのに対して、この方法は中等度の大きさの血腫に対して行われることが多く、血腫をできるだけ吸い出すことで脳に対する圧迫を早期に軽減し、脳の機能回復を早めることを目的としたものです。局所麻酔で手術が可能なことから、全身合併症を持つ高齢な患者さんに対しても比較的安全に治療を行うことが利点といえるかと思います。


 問題点は、直視下に血腫を観察して手術を行うわけではないので、すべての血腫を取り除くの難しいという点と、再出血が約4%あるという点でしょう。ただし、血腫が手術のみで十分に取れない場合には血腫を溶かす薬を使用して残った血腫を抜く方法もあります。